ならばお好きにするがいい。
 
食べ終えた食器を片付けようと立ち上がったら、不意に先生に腕を掴まれた。


「先生?」


下から瞳を覗き込まれて、思わず息を呑んだ。真っ直ぐな瞳に、目も心も奪われる。


先生は私の腕からそっと手を離すと、私を見つめる瞳はそのままに、口だけを小さく動かした。



「……ありがとな」



抱えた食器を一旦テーブルに置いて、私は再び先生の隣に腰を落とした。


「お礼言われるようなことなんてしてないです」


私がそう言って笑ったら、先生は唇をへの字に曲げて首を傾げた。


「なんだよ。お前のことだから『看病してあげたんだから何かお礼下さい』って暴れんじゃねーかと思ってたんだがな?」

「そんな子供みたいなことしませーん」

「ご褒美星人がよく言うぜ」

「分かってないなぁ先生!テストとか体育祭とか、ああいう自分が頑張ったことにはご褒美欲しいけど、今回は私なんにも頑張ってないから、ご褒美もお礼もいらないんです!むしろ、先生のお部屋にお泊まりできたことがご褒美でした!夏休みの間、特に予定もなく孤独に耐えていた私に、神様がご褒美として思い出を作ってくれたのだと思いますです!」


先生はくつくつ笑いながら「そうか」と呟くと、私が運ぼうとしていた食器を持って立ち上がった。


「先生?何してるの?食器なら私が洗うよ?」

「いい、俺がやる。それより、お前は身仕度しろ」

「?」

「何日も家に引き込もってたから体なまったろ。どこか連れていってやるから、仕度しろって言ってんだよ」


先生は私の眉間をピンッと弾くと、悪戯っ子みたいな笑みを浮かべた。





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