ならばお好きにするがいい。
その時、鞄の中に入っていた携帯が震えた。
「もしも~し」
電話越しに聞こえる気の抜けた声。
「……んだよ」
「樫芝ですけど」
「んなこたァ知ってんだよボケ。用件言え、用件」
「なによ、ちょっと冷たいんじゃないのお前。もしかして莉華に振られた?」
「振られてねェ!告白自体してねーしする気もねーよ!」
電話の向こうで能天気な笑い声を上げている樫芝を今すぐ殴りたいと思った。
「はーいはいそんなに怒らない怒らない。で?莉華の具合は大丈夫なの?」
「……なんでテメェ俺が結城のこと送ったこと知ってんだよ」
「知ってるに決まってるでしょーよ。授業中に倒れた莉華をお姫様だっこで保健室まで運んだことも、寝てる莉華にこっそりキスしたことも、送るって口実で車に連れ込んで弱ってるのをいいことにあんなことやこんなこと……」
「ふざけんなああああああああああああッ!!!!!!保健室まで運んだとこから後全部やってねえよ!撤回しろ!」
「なんだ、お姫様だっこはしたんだ」
携帯をぶっ壊したい衝動に駈られたが、寸前のところで思い止まった。
「で、莉華大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇけど大丈夫だろ。今頃ネギ巻いてコンニャク乗っけて寝てるはずだ」
「ネギにコンニャク……?なんでまたそんな古典的な療法を……」
「あんだテメェネギとコンニャクなめてんじゃねーぞコラ」
なんなんだよこいつ腹立つな。
電話を切ろうと電源ボタンに手をかけた時、樫芝の声色が不意に変わった。
「それでさ、雅人……。ちょっと、訊きたいことあるんだけどいい?」
いつもより低い声。
「なんだよ?」
「ん……あのさ」
数秒間、訪れた沈黙。
俺から口を開こうとした瞬間、それはいつもの調子の奴の声に遮られた。
「……はは、なんでもな~い」
「はァ!?」
「莉華が無事か気になっただけだから!無事なら良かった良かった!うん、雅人おつかれ!それじゃーね」
プツリ、一方的に切られた電話。
「一体何だったんだ……?」