愛詩-アイウタ-
 だから音楽室を選んだのだ。うちの班──おもに女子は。



 と言ってもひぃとゆみだけだけど。



「るぅ、行こ」



 ここは3階だから、1階下がるだけ。3階が1番楽だ。


 返事変わりにるぅは右手を差し出した。その手を握る。



 大きい手。なんか皮厚いし。



 自分の右手を見る。



 指短いっ。爪汚いし…。それにちっちゃい。



 るぅの右手がうらやましい。バスケボールを片手でつかめたりするのかな。



「るぅー、音楽室に40分はいれるよー?」



「そんな時間あるのかぁ。明日は待ち合わせ遅くする?」



「えっ、やだぁ。こんまんまでいいよ!待ち合わせ遅いとひぃが寝坊したら大変なことになるっ」



 大変なこと=遅刻



 早ければるぅが迎えに来るから、部屋にあがって待っててもらえる。



 本当は、それだけじゃないけど。



 一緒にいる時間が欲しい。



 放課後はバイトがあったり、ゆみたちと遊んだりだから。



「しょうがねぇなぁ。でも明日は自転車だからな」



「歩きじゃないの~?まぁ、自転車ならるぅのうしろに乗るっ!」



「自分でこげよ!…軽いならいいけど」



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