蔓薔薇屋

アルバート・フォスターの憂鬱

「解決屋?」

とある二月の寒い日。
アルバートは最近入った、小さな、若者だけが集まるクラブにいた。

明々と燃える暖炉の前に陣取ったソファに腰掛け、隣にいる友人のメルヴィル子爵が葡萄酒片手に上機嫌に切り出した。

「そう、解決屋。ブレドンの…えーと、どこだか解らないんだけど、小さな路地にある『蔦薔薇屋』って店があって、そこに行けばどんな問題も解決できるんだって」
「へえ。」
「路地、って言ってもどこの通りで、どの近くのかってのも解らない。実際行ってみた僕も見つけられず仕舞さ。まるで霧男(フォッグマン)のようにどこにあるのかわからない」

メルヴィル子爵はそう言葉を切ると葡萄酒をひとくち含んだ。

「…不思議で、とても魅力的な店だね」

アルバートは彼の灰色の瞳を見つめながら呟いた。

「だろう?だが見つけられない」
「そこが惜しい」
「…見えないからこそ魅力的なのかもしれないな」

ひとしきりそれに苦笑すると、アルバートは近くにあった葉巻(シガー)を手に取った。
優雅にマッチを擦り、先端を切り取ったシガーに火をつけた。
すう、と反対側から吸うと、酔うような甘い、極上の煙が口内をゆるゆると満たしていく。
しばらくして満足したようにふうーっと深くため息を吐くように紫煙を吐き出した。
彼には今、のっぴきならない事情の『問題』が発生していた。
それはたぶん、第三者か自分でないと解決できないものだ。

だから、この解決屋というほとんど都市伝説にも似た噂話にもとても、いや、かなり。…大いに興味があった。

今、彼は人生の帰路にたっていた。
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