見えない糸
直次はビックリした。
「どうした?何が見える?」
「お父さん...どこか行っちゃう...」
「お仕事じゃないのか?他には何が見える?」
紗織はポロポロ涙を溢しながら言った。
「お母さんが...アタシの腕を掴んで...お父さん泣いてて...」
「お父さんは何か話してた?」
「...また来るからって...」
お父さん...と呟きながら、まるで小さな子供が泣くように、両手で目を塞ぎながら泣いていた。
この時が、紗織の1番目の【心の傷】なんだな。
今日は、ここまでにしておこう。
「紗織、今聞こえる波の音が止まったら、目が覚めるよ」
直次は徐々にボリュームを下げ、部屋の照明をつけると、紗織の瞼がゆっくり開いた。
「しばらく動かないで、そこに座ってなさい」
直次はそう言うと、パソコンに今回の事を打ち込んだ。
「うん...なんか疲れた...」
そりゃそうだろう。
頭の奥底にある記憶を、探し出してくるんだから。
「眠くなったら、ベッドに移るか?」
「...うん...オジサンの貸して...」
直次は紗織を抱き抱えた。
「オジサン、ぎっくり腰になるよ」
「大丈夫だ。なったら、なったまでだ」
紗織をベッドにおろすと笑って言った。
布団を被った紗織が、ボソッと呟いた。
「よかった...加齢臭じゃなくて...」