見えない糸
紗織は、いつの間にか眠っていた。
1年生といえば...
6歳くらいに、両親が離婚したのか...
何があったかなんて、子供の紗織には分からないし、当時の両親だって話さなかっただろう。
ある日を境に父親が帰ってこないのは、小さい子供の心に傷が付くのは当然。
パソコンに打ち込み終えると、窓を少し開けてタバコに火を点けた。
直次にも親はいるが、疎遠になっている。
家庭環境が複雑で、どちらかといえば、もう連絡したいとも思わないから、今どうしているかなんて考えもしない。
それでも、昔の記憶はある。
紗織は過去の記憶が全くない。
治療しないと、昔を思い出せない。
親が誰かも、どこに住んでいたのかさえも。
「俺と紗織が逆だったらな...」
寝顔を見ながら、心底そう思った。
自分は思い出したくないけど、ハッキリ覚えてしまってる記憶。
紗織は思い出したくても、記憶の糸を手探りで探し、たぐりよせなくては
思い出せないからだ。