見えない糸
ついさっき通った道を、また走っていた。
「まるで双六の【ふりだしに戻る】だな…」
直次は苦笑いしながら、ハンドルを握った。
早く紗織の過去を知りたい、小谷が知る紗織の情報を全て知りたい。
いつもよりアクセルを踏んでいたと思う…
予定より20分も早く、小谷の自宅に着いた。
階段を駆け上り玄関チャイムを鳴らすと、すぐに小谷が現れた。
「ずいぶん早かったですね」笑いながら言う。
「ええ、僕もビックリしてます」照れ笑いしながら答えた。
直次は部屋の中に通され、ソファーに腰掛けた。
「先生、何飲みます?初めはコーヒー、次はお茶でしたので…」
「じゃ、コーヒーをお願いします」
小谷はコーヒーと灰皿を、直次の前のテーブルに置いた。
「1日に3度もお邪魔するなんて、無いですよね」
「でも、今回は私が先生にお願いして、お越しいただいたんですから…」
クスクス笑いながら、小谷は隣の部屋に入っていった。
直次も鞄の中から、手帳とタバコを取り出し待っていた。
「先生にお渡ししたいのは、これなんです」
小谷は菓子箱のような小さい箱を持ってきた。
「これですか?今見ても?」
「ええ、構いません」
手渡されたその小箱の蓋を、そっと開けた。
中には新聞の切り抜きと、しわしわの手紙だった。
【無理心中か?男女死亡】こんな見出しの小さな記事。
亡くなった人の名前は書いていない。【男性Aさん、女性Bさん】と書いてある。
そして、手紙は
【他に女がいるなら、帰ってこなくていいから。毎日帰ってくるわけじゃないし、待つのはもうイヤなのよ】
と、別れ話と思えるような文章が書かれていた。