求愛
恋愛は、馬鹿にするほど悪いものじゃないのかもしれないと思い直した。


あたしと乃愛は気分も上々のまま、再び街へと繰り出す。


買い物をして、プリクラを撮って、思い出したように先ほどの話ばかりしながら、時間だけが過ぎていった。


そしてすっかり辺りも薄暗くなり、そろそろ帰ろうか、という話になった。



「ねぇ、千田っち呼んでよ!」


乃愛は目を輝かせて言ってくる。


千田というのは、あたしがいつもお世話になっている個人タクシーの運転手で、直接携帯番号を知っている。


なので呼べばいつでもすぐに来てくれるし、またに代金をまけてくれたりもして、あたしよりずっと歩くのが嫌いな乃愛は、いつもこう。



「だって千田っち超良い人だし、リサばっかタダにしてもらってズルイよー。」


別に毎回タダにしてもらってるわけじゃないけど。


仕方がないなとため息を混じらせ、あたしは携帯を取り出した。


電話をすると、客待ち中だった千田さんはすぐに来てくれると言った。



「ホント、持つべきものは友達だよねぇ。」


「うわー、腹立つ台詞ー。」


なんてことを言いながら大通りで待っていると、一台のタクシーが横付けした。


あたしが乗り、乃愛もほくほく顔でそれに乗り込む。



「千田さん、いっつもありがとねぇ。」


「いえいえ、こちらこそいつも宮原さんに呼んでもらえて嬉しいですよ。
最近タクシー業界も厳しいんで。」


冴えない30歳前後の彼は、ルームミラー越しに笑った。


去年、偶然乗ったことが出会いで仲良くなり、今じゃすっかり移動のアシとなってくれているので、本当に感謝しているのだが。


適当な会話を交わし、車は発進した。

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