求愛
確かに雨も止んだし、いつまでもここにいる理由はない。


だから息を吐いて立ち上がると、送ってやるよ、と言われた。



「乗れよ。」


けれどあたしは首を横に振った。



「大丈夫だよ、歩いて帰れるから。」


「アホか。
こんなとこで制服着てひとりで歩いてたら、拉致ってくれって言ってるようなもんだろ。」


「うるさいわねぇ。」


「てめぇ、マジ強情だなぁ。
少し前にも地元の中央公園でレイプ事件あったの知らねぇのかよ。」


どきり、とした。


それはタカが自らの母親を犯させたものだ。


一瞬にしてあの日を思い出して青ざめるあたしに、春樹は、



「ったく、ホントにしょうがねぇヤツだなぁ。」


ため息を混じらせてから、バイクを押し始めた。



「ほら、駅まで歩くんなら付き合ってやっから。」


「…えっ…」


「別に姉貴がどうなろうと関係ねぇけど、しょうがねぇだろ、雷帝さんから頼まれたんだから。」


素直ではない弟だ。


だから少しばかり笑ってしまい、バイクを押しながら歩く彼の後ろを続いた。


そうか、春樹はどことなくタカに似ているんだ。


今更そんなことに気付き、知らない間に逞しくなっていた背中を見た。


まるで木下くんが導いてくれたみたいだね。

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