求愛
星もない静かな夜。


今まで散々憎み続けていたはずの弟と、まさかこんな風にして並んで歩く日が来るなんて、思いもしなかったけれど。


コイツめ、いつの間にかまた背が伸びているだなんて、腹が立つ。



「おい、ジュースくらい奢れよな。」


「んなもん、自分で買えば良いでしょ。」


「こっちはなぁ、てめぇの所為でバイト休む羽目になったんだぞ。」


「あーっそ。」


「うわっ、昔は泣き虫なチビで可愛かったくせに、今じゃ姉貴もただの性格ブスだな。」


「アンタに言われたくないわよ。」


ぎゃあぎゃあと言い争うあたし達は、何なのか。


あれから5年を経て、何もかもが変わってしまった中で、やっと築けたものもあるのかもしれない。


ふたり、顔を見合わせ、イーッとした。


それからまた、ひとしきり騒いだ後で、春樹は息を吐く。



「なぁ、あの頃のこと思い出さねぇ?」


「………」


「俺らはいっつもこうやって、ふたり一緒に並んで帰ってたんだよな。」


「そうだね。」


もう戻ることはない、けれど懐かしくも愛しかった日々。


春樹が足を止めた視線の先には、駅が見えていた。



「この辺ならもう携帯の電波通じるし、雷帝さんに電話しとけよ。」


「…あ、うん。」

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