求愛
人間は、考えることを止められたらなら、どんなに楽だろうかと思ってしまう。


嫌になるくらいにお手軽で、貞操観念の欠片もないあたしには、大した価値なんてないのだろうけど。


その場しのぎの高揚感で、一体何が埋まるのかは、わからない。


隣の部屋から音楽と人の声が薄い壁越しに聞こえ、男の興奮の混じる息遣いがリアルに響く。


不意にタカの顔を思い出し、でもすぐにそれは、彼の味に消されてしまう。


空虚な場所がうがたれる度、引いてしまいそうな熱を手繰り寄せた。


汚れた意識だけが混濁していく。


あたしは何をしているのだろうか。







情事を終えて乱れた衣服を直し、ふたり、煙草を咥えた。


気だるさの中で、取り留めのない思考のままに煙がたゆたう様を見つめていると、



「なぁ、そろそろ時間だし、帰る?」


彼は言った。


まぁ、終わってみれば男なんてこんなものだ。


何も言わずに頷いて見せると、すっかり彼は何事もなかったかのような顔。


一夜限り、もう二度と会うことはないだろう。


だって興味の欠片もない男と、ダラダラとセフレのような関係を続ける気にはなれないから。


狭い密室にはセックス後の独特の匂いが満ちていて、ここにいるだけで頭がおかしくなってしまいそう。





パンツを売って、
知らない男と行為に及ぶ、


腐った果実のような自分に嫌悪した。







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