狼彼女のお気に入り
自分で自分が情けなくなって、篠田から視線をずらす。
まさか、な。
俺は冷静になろうと、篠田から離れようとした。
「ちょっ……篠田?」
立ち上がろうとして床についた腕を掴まれた。
俺の腕を掴んでいる手は、あまりにも小さくて。
振り離すことも出来たはずなのに、それが出来なかった。
俯いていて視線の合わない篠田の小刻みに揺れる指が離れる前に、俺はもう一度声をかけた。
「…篠田?」
「……ごめんね」
「え?あ…あぁ」
「…それから、ね。」
「ん?」
「……ううん。なんでもない。」
微妙な間の後にそう言って笑った篠田が、どうしてだか、とても儚く見えた。
だけど、今は。
今の俺は、それを見てみぬふりをすることしか出来なかった。