狼彼女のお気に入り
「…ちょっと苛めすぎたかな。」
自分のクラスの席に戻ると、恵介がそう小さく呟いた。
「苛めた、って…誰を。」
「副会長ちゃん。」
「柴原…?」
「あぁ〜次、俺出番だ。」
ん〜と恵介は欠伸をして、椅子から立ち上がった。
その横顔には少し曇った色が見えた。
でも決して、恵介はその理由を俺には言わない気がする。
というか、きっと馬鹿にされる気がする。
「あ、翔。…さっきの嘘だから気にすんなよ。」
「嘘?」
「じゃ、行ってくる。」
俺の疑問の声は恵介には届かなかったらしい。
後ろ向きに片手を上げてヒラヒラと振った恵介は、あっという間に校庭の向こう側まで走って行った。
「…俺も行くか。」