秘密
SIDE.今野珠子
珠子は非常階段へと向かった。
しかしそこにはもう既に悠平と好美が居たので、咄嗟に珠子はじっと息をひそめた。
門田君、先生と何を話しているの。
「好きだよ、先生」
「!」
珠子はその言葉にびくりと反応して、非常階段を覗いた。
そこには好美を抱き寄せる悠平がいた。胸が痛んだような気がした。
そうだよ。
何を勘違いしているの。
門田君が好きなのは、雨宮先生だよ。
何を期待する必要があるの。
違う。期待なんてしていない。
あたしが門田君を好きなわけではない。
珠子は非常階段をあとにした。
悲しいのだろうか、寂しいのだろうか、それは珠子自身にも解らなかった。
ただ、確かにあの二人の間には珠子が入ることのできない何かがある。
珠子は無意識にも唇を噛んだ。
荒れた唇はカサカサなままだった。