秘密
SIDE.今野珠子
なんだか、とても馬鹿らしく思えてしまったんだ。
あたしが門田君を、好きだということが。
門田君は先生を好きでも、いとも簡単にあたしにキスをすることができる。
ああ、馬鹿らしい。
「さすがだね。先生も、結婚する相手がいるのに門田君とキスしたりするんだ」
悠平の、珠子を抱き寄せた手の力がだんだんと弱くなっていく。
「結局その関係を楽しんでいるだけなんでしょう?好きだなんて言いながら……、本当は今だけの、体だけの」
「うるせえっ!」
どん、と珠子の体が揺れた。
悠平は真っ赤な顔をして、抱き寄せていた珠子の体を突き飛ばした。
「なっ……」
「お前に何が解るんだよ、先生の気持ちを知らないお前に」
門田君が怒っている。
初めて見る、門田君の怒りだ。
「解ったような口を聞くな」
じろりと睨まれ、珠子は足が竦んだ。悠平はそのまま非常階段を去る。
解らないよ。
急に怒鳴った門田君が。
年上の女性にうつつを抜かしている門田君の気持ちなんて、解らない。
あたしを好きになれば、隠れて会うこともないのに。
一つだけ解るのは、結婚を決めた先生が門田君から離れられない理由。
ほら。
あたしは今、こんなにも門田君に魅かれているじゃない。
結婚を決めた彼女が、門田君を手放せない気持ちが痛いほどよく解るの。