秘密
 

SIDE.今野珠子
 



 
その頃、どうしようかと珠子は焦りを隠せずにいた。
雨宮好美を目の前にして。
 

 
「まあ座って頂戴」
 

「あ、失礼します……」
 

 
あのあと珠子が教室から茫然とした状態で鞄だけを抱えて出ると、下足場への通り道にある音楽科準備室からちょうど雨宮好美が出てきたのだ。
 

そうして何故か珠子は好美に手を引かれ、音楽科準備室へと連れ込まれたのだ。
 

 
「あの……先生どうしてあたし」
 

「貴女に門田君と私のことを話そうと思ってね」
 

 
珠子はどきりとした。
好美からはその言葉の意味が汲み取れないような表情が窺えた。
 

 
「……私には同い年の婚約者がいるわ」
 

「えっ!?」
 

 
それからぽつりぽつりと、好美は悠平との内情を話し始めた。
 

 
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