秘密
 

SIDE.雨宮好美
 



 
「おかえり」
 

 
その日好美が帰宅すると、婚約者の松永聡が部屋に来ていた。好美は聡に合鍵を渡しているので、特に驚くこともなく声をかけた。
 

 
「どうしたの?こんな時間にいるなんて珍しい」
 

「今日はあまり忙しくなかったから、定時で上がったんだ」
 

 
聡は普通のサラリーマンだ。ビルの中で毎日事務職をしている。
午後六時が定時らしいが、普段は仕事を家に持ち込まない為に残業をしているので、今日は余程暇があったらしい。
好美が一人暮らしをする部屋に帰宅したの午後七時過ぎのことだった。
 

好美は洗面所の側で着替えてから、そのままキッチンへ向かった。
 

 
「もうご飯は食べたの?何か作ろうか」
 

「うん、オムライスが食べたい」
 

「了解」
 

 
聡はテレビを見ていたが、おもむろに腰を上げて棚から皿やスプーン、コップを出した。それからコップに冷えた麦茶を注いでいる。
 

聡は、夫婦は家事を分担するものだと考えているらしい。
いつもコンピュータと向き合っている聡の細腕が、今は何よりも頼もしく見える。
 

 
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