ピアス
林檎

1

 わたしよりも六つ年上の秋江さんは、なかなか感情を表に出さない淡泊な人だった。だが、優しい人でもあった。
 気立てがよく、頭もよい。器量もそこそこで、化粧をしていなくても綺麗な肌をしていた。
 彼女は、気取らず、年齢や立場に応じてことばや態度を使い分けるけじめを持っている。近所でももっぱら評判がいゝ。秋江さんに縁談(えんだん)を持ち込む世話好きな小母さんが後を絶えないほどだった。
 秋江さんは、両親を早くに亡くし、妹の夏江さんと二人暮らしをしていた。とても仲のよい姉妹で、わたしには、なぜかそれが切なく思えた。
 そんな秋江さんが自殺を図ったのは六月。ちょうど梅雨どきで、長らく雨が降り続いていた。


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