ピアス
 雨が降ると思っていなかったわたしは、新しい傘をまだ買っていなかった。前に使っていた傘は、穴が開いて使い物にならず、捨ててしまっている。
 仕方なく、わたしは秋江さんの家を訪ねた。
 呼び鈴を鳴らすと、軽い足音がして、すぐに夏江さんが顔を出した。
 姉と瓜二つの顔は、双子を思わせる。とても四つも離れているとは思えない。ただ、腰まで届く漆黒の髪の秋江さんに対して、夏江さんは茶色い髪を首もとで切っていた。
「奈津実ちゃんぢゃない。」夏江さんは、人なつっこい笑みを浮かべた。
 家族はもちろん、秋江さんや近所のさほど親しくない人までが「奈ッちゃん」とわたしを呼ぶなか、夏江さんだけが奈津実ちゃんと呼ぶ。嫌ではないが、よそよそしい感じがして寂しかった。
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