ピアス
 傘を差し、わたしは母から頼まれた苹果(りんご)を買いに、小商店へ向かった。
 秋江さんの家を出てから数分と経たないうちに、小降りだった雨は本降りに変わった。 傘に落ちる雫のリズムが、柄を通して肌に伝わってくる。
 傘を振り回して遊ぶ子どもや、水たまりで遊んで叱られる子どもが眸に入った。
「あら、奈ッちゃん。久しぶりぢゃない。いつものリンゴでいゝのかしら?」
 小商店を女手ひとつで営む小母さんは、いつも苹果をビートルズのリンゴと同じく発音する。
 人によっては分からないこともあるほど微妙な違いだが、その僅かなニュアンスの違
いが大切なのよ、と小母さんは憶えたてのカタカナ英語を使いながら云う。
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