ピアス
「久しぶりね。」
「お久しぶりです。秋江さんいますか。傘を借りようと思って。」
「そう。秋江姉さんはお風呂に入ってるわ。ついさっき、ずぶ濡れで帰ってきたの。傘を持って行かなかったのね。ビックリしたわ。帰ってくるなり、真っ青な顔でお風呂場に猛ダッシュするんですもの。失恋でもしたのかしら?」
 夏江さんは冗談交じりに云った。
「あ、傘だったわね。そこから適当に持って行って。秋江姉さんには後で云っておくわ。」
「ありがとう。」
 夏江さんの示した傘籠(かさかご)から、柄が木でできた傘を一本取りだす。
 小さなレースで縁取られ、全体が淡い碧色をしている。ところどころに白い水玉模様がバランスよく入っていた。
 秋江さんの品の良さが窺える。
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