空白の時間=友情>愛情

晩春

12年前の春―。

広沢賢二は真由美に付き添われ、病院の霊安室で冷たくなった母親の前に立ち尽くしていた。

涙は出なかった。

数時間前、母親は療養施設の屋上から飛び降り、帰らぬ人となった。

「アイツのせいだ!」

拳を握りしめ、賢二は絞り出すような声でつぶやいた。

賢二の肩に手を添えて、真由美が言った。

「お父さまは帰国されないそうよ…」

「ボクはアイツを絶対に許さない…」



外では時折吹く風に桜の花びらが舞い散っていた―。
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