オリオンの砂時計

金魚。

★金魚。★


外は雨。

私は眠り続け
時間や日にちの感覚をなくしていた。

朝と思って目を醒ますと9時なのに真っ黒なブラインドの隙間を見て夜と認識する。

遊びのつもりで一晩だけ過ごした男から本気で好きになったと迫られ、返事をするのも苦痛だ。
身体も頭も酷使しすぎて疲れてる。

赤い蝋燭で腕に絵を描こうとしたけど、なんだかうまくいかなくて、まるで鯉になり損ねた金魚の鱗だ。

育ちすぎて水槽に戻れなくなった金魚だ。


★殺されるまえに。★

声を聴くだけで

その眼に見られるだけで

貴方の手でじわじわと傷をつけられて

殺されてもかまわない気分

錯覚かもと半分思いながら

その手に私の身体のすべてを委ねて

手足の先から少しずつ温度を失っていく

頭の中 意識がぼやけて

このまま死んでゆくのだろうか

それならせめて

最期に

あの人の低い声を

あの人の温かい体温を

あの人の髪の匂いを

感じてから

逝かせてくれますか


★髪の匂い。★


男は私の髪を舐めたがり、髪に唾をつけた。

私の唾を飲みたがり、私に自分の唾を飲ませたがった。

こんな奴、ザラにいる。変態の部類になんか入らない。

ホテルの部屋を出る時、男は気色悪いディープキスを求めてきたが私はそんなのはもう飽き飽きして、軽く唇同士触れ合ってすぐドアを閉めた。金はもう私の手の内にあるもの。

男の体液や唾の匂いが身体と髪に染みついてキモチワルイ。

アトマイザーを忘れてきたことを後悔して、香りつきのボディクリームを両手にのばし髪にすりこんだ。

何の感情も抱いていない男と、私は身体の関係をもつ事が耐え難くなっている。

それはおそらく健全な事なのだろうけど。



私にとって、執着すべきは金か。男か。



心の寄りどころが金の全くない男である私は、どうしよう。

金は、自分が稼ぐしかないのか。

その彼と会う度憂鬱に思う。

私はあなたといて、確かに最も自然体でいられて気持ちいいけれど…私は家族を養えない男と一緒になるつもりは毛頭ない。

金の切れ目は縁の切れ目。

ホントの事。
重く実感してる。

金だけでもダメ。



けど。



気持ちだけなら。
尚更、駄目。


質が悪すぎるもの。


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