オリオンの砂時計

昼寝しちゃったから頭が冴えてる。
どうしても眠れない。
しかも頭の中は嫌なイメージしかわかない。
これまでもそんなことが幾度となくあった。
兄や母が死ぬ映像とか、私が人を殺す映像とか、突然浮かんできて、こういうの妄想とかいうのかもしれないって思ったりして、でもそんな名称なんかどうでもよくて、頭を抱えて髪の毛かきむしって、なんとかその映像を消そうとする。
だめだ。このまま暗闇の中にいたら発狂しそう。
そしたら私は檻の中?
そんなの嫌。
ベッドから這い出して、抗不安薬を飲む。
映画のサントラを小さい音量で流して、一昨日買ってきた文庫本を、とりあえず開く。
すごい、この本…。
今の自分そのままっていう感じ。
いつの頃からか、本や映画やテレビドラマなんかみてるとき、作中に自分と共通点のある人を探して、自分と重ね合わせてみることが当たり前になっていた。


本屋とか行っても散歩してても、電車に乗っても今まで一度も会ったことのない人たちとすれ違ったり、向かい合わせの席に座ったりする。
その人が今何を考えてるのか、今日の朝食はなんだったのか、家族が何人いて、どんな恋人がいて、いつ生まれて死ぬのか、そんなことって全くわからない。
だからフツウなんてあってないようなもので、すごく不確かで不自然で曖昧な言葉。
さっきすれ違った高校生がこれから数時間後には首つってるかもしれないし、昨日電車で向かいの席にいた30代のサラリーマンには奥さんがいて、今日が結婚記念日で、でもそのことすっかり忘れてて奥さんに怒られるかもしれないし、つまりなにがいいたいのかっていうと。
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