ビター・キャラメル
「あ、マスター」
彼が声をあげた先には、奥で寝ていたらしく、ぼさぼさの髪でしかめっ面をした、この店のマスター、…マスターの名前も知らない。
って、これ不公平じゃない?
なんであたしだけ名前知られてるのよ。
今まで不思議に思ったことはなかったけど、改めて考えるとおかしい。
…まあこの店なんてそんなものなんだろうけど。
「梨乃うっせーよ」
「…ごめんなさーい」
「お前も、梨乃を汚すな」
マスターはカウンターにいる彼の頭を叩いて、自分もその隣に座った。
「俺汚れてないんだけど!」
「あぁ?汚れてんだろう」
マスターは不機嫌そうに眉をひそめ、タバコを取り出して吸い始めた。
…彼は何してきたんだろう。危ない仕事とか?
うん、ありえる。
この顔と軽さならホストとか言われても驚かない。