ひねもす月
スニーカーにしみ込んだ水分がぐちゃぐちゃと音を立て、気持ち悪い。

ミナのペタンとしたサンダルも、見れば、足ごと泥にまみれていた。


「もう進めないって。
戻るよ」


これ以上気まぐれに付き合うことはできなかった。
ミナの足が何かの破片で切れでもしたら大変だ。


「ほら」


つないだ手を強めに引いた、その直後。


「……あっ」


指が、ほどける。
ニッと笑って。ミナが駆け出した。


ふりほどかれたことに驚いたカナタの動きが、数拍遅れる。
じっと、手を見て……ショックが、波のように襲ってきた。


チャッ……チャッチャッ


湿地を軽快に遠ざかる音が、どこか別の世界の物音のように聞こえる。


ミナが……行ってしまった。

置き去りに、されてしまった……。


「…………おにいちゃーん」


と、茫然としたカナタの耳に、風にのり自分を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ミナ!!」


はっと我に返り、慌てて華奢な背中を追う。


「おにいちゃーん」


カナタから逃げたわけではなかったらしい。
思わず、吐息がもれた。

得も言われぬ安堵と、姿が見えない焦りで、がむしゃらに走る。


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