ひねもす月
ミナの声は、一層高くなった葦原の奥から聞こえてくるように思える。

ガサガサと掻き分けるのももどかしく、足場の悪ささえも忘れて、カナタは一心に妹の姿を探した。

ミナは、何があっても守らなくちゃならない。

それは自分に居場所を与えてくれたミナへの、カナタなりの誠意。


「ミ……わぁ!」


思わず、感嘆の声が漏れた。

一面に、広がる漣。


驚き覚めやらぬカナタの手に、そっと温かなものが触れた。


「連れて来てくれたの?」


見なくたってわかる。
柔らかな、ミナの手だ。


浜と呼ぶには小さな、名もなき、浜辺。
蘆に囲まれ、足元には大きめの石が無造作に転がり。

滅多に人が来ないだろうことが一目でわかる。


「何?」


唐突に手を離し、しゃがみ込んだミナが、何かを拾い上げた。
すると、それをもったまま、色の濃い重そうな石を指差す。
近寄ると、ミナは、こぶしの中のチョーク石で、そこにたどたどしく文字を書いた。


「し…?あ、『ひ』か。
ひ……み……?」


絵のうまさに比べ各段に幼い字形が、ゴツゴツとした岩肌でさらに歪む。
普段は面倒くさがって筆談も滅多にしようとしない。それを考えれば、よほど伝えたいことなのだろう。


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