光の子
後半15分が過ぎたところで、好調にも関わらず矢楚に交代の指示が出た。
ピッチを出ると、
ブィットリアの本郷監督が呼んでいる、と声がかかった。
タオルをとる間もなく、
汗をユニフォームの袖で拭きながら、矢楚は本郷監督らが立つサイドへ走った。
監督は、取り巻き数人と何やら話し込んでいる。
もう試合の行方は気に留めていないようだ。
矢楚がそばへ行くと、
関係者の一人がすぐに気付いて監督の前にいざなった。
向かいに立ってみると、監督は矢楚が思っていたより少し小柄だった。
人物のもつ迫力が、実際より大柄に見せていたのだろうか。
勝負の世界に生きるとは、苦悶に耐えることなのか、
五十歳は越えていないはずの顔に、皺が深く刻まれている。