光の子


後半15分が過ぎたところで、好調にも関わらず矢楚に交代の指示が出た。


ピッチを出ると、
ブィットリアの本郷監督が呼んでいる、と声がかかった。


タオルをとる間もなく、
汗をユニフォームの袖で拭きながら、矢楚は本郷監督らが立つサイドへ走った。


監督は、取り巻き数人と何やら話し込んでいる。

もう試合の行方は気に留めていないようだ。



矢楚がそばへ行くと、
関係者の一人がすぐに気付いて監督の前にいざなった。


向かいに立ってみると、監督は矢楚が思っていたより少し小柄だった。

人物のもつ迫力が、実際より大柄に見せていたのだろうか。


勝負の世界に生きるとは、苦悶に耐えることなのか、
五十歳は越えていないはずの顔に、皺が深く刻まれている。




< 310 / 524 >

この作品をシェア

pagetop