光の子
響子は、下ろしていた髪をかきあげると、右手首にはめていたゴムで高く結った。
「肉体の美はね、悲しいかな、あっという間に喪われるのよ。
人間の表面はね、年とともに衰える。
誰にも分からなくても、美しさの全盛期を下りはじめていることは、自分にはわかるんだ。
そうなると、鏡を見るたびにため息よ〜」
「響子さんは、とても綺麗です」
お世辞ではない。
四十歳は越えているはずだが、その色気は健康的ですらある。
メキシコで養われた響子の美しさは、太陽と大地の力強さを思わせる。
響子は大袈裟に広香を抱き締めた。
「カワユイの〜」
「カワユイも久しぶりに聞きました」
ほほう、これもか、とトボケた顔をすると、
響子は景気をつけるように広香な背中を叩いた。
「さあ、命短かし恋せよ乙女。
若い今しかない美しさを、もっと謳歌しなさい。
思い切りお洒落して、受賞を報告するオトコの一人くらい、いるでしょ」
広香は、曖昧に微笑む。
響子は、少しだけ声のトーンを下げて広香に言った。
「それと。広香、あの話。ゆっくりでいいから考えていてよ」
「……はい。
じゃあ、お言葉に甘えて帰ります」
そう言って、広香は工房の敷地内にある、離れに向かった。