光の子
「矢楚、スーツなのに」
そんなの、いいの。
矢楚が腕を回して広香を包んだ。
大きな体がもたらす、絶大な安心感。
ゴツゴツしているのに、心地よい。それは初めての感覚だった。
幼い子が父親の膝の上に乗せてもらうと、こんな感じなんだろうか。
金星の瞬きを二人で眺めた。
矢楚の言うとおり、十年前の空によく似ていた。
「広香、見てて」
矢楚が金星に手を伸ばして掴むふりをした。
手を握る、けれど星は同じ場所で輝いている。
広香は後ろを向いて、
残念、と矢楚の頬にくちづけた。
「そうかな?見てごらん」
矢楚が握った手を広香に差し出した。
「え?」
広香が手を添えると、矢楚のがっしりとした指がふわりと開き、
金色に光る指輪が現れた。