風に揺蕩う物語
感情表現が乏しいと言うか少ないシャロンは、平素笑う事が少ない。

シャロンはぎこちない笑顔を携えると、ヒューゴの後ろに控えるように移動をし、俯きはしないものの肩幅を狭くさせながら佇む。

その後は陽気な様子で話しかけるヒューゴに、相槌を打つものの笑顔を忘れたシャロンの奇抜とも取れる光景が続く。

そんな中、会場に様々な楽器を携えた軍団が姿を現すと、会話を楽しんでいた人々が一斉に会話を辞め、中央の広い空間に集まり出した。

「何が始まるのですかヒューゴ様？」

「何が始まるって？それは行ってみれば解るさ」

時は来た。諦めていた展開が様々な困難を乗り越え、今こうして成就しようとしている。

ヒューゴはシャロンの手を取ると、そのまま会場の中央に移動した。シャロンはヒューゴに導かれるまま移動し、周りの光景をじっくり眺めた後、状況を理解したようだった。

「そっそんな。ダンスなど私は踊ったことがありませんっ。それにヒューゴ様と踊るなど」

「僕がリードするから大丈夫。それにここまで来てしまったら最後、一曲踊るまで戻る事は出来ないよ。マナー違反だしね」

ヒューゴはシャロンの腰に右手を回すと、左手でシャロンの右手を握り、横に水平に伸ばす。

「左手を僕の肩に置いて」

「こっこうですか？」

「出来れば逆の肩に手を置いてくれるかな？これでは密着し過ぎでシャロンの顔が見えないよ」

シャロンは動揺しているのか、ヒューゴの首に腕を回して左肩に手を置いていた。これでは抱きついている様にしか見えない。

ヒューゴは笑いを抑えながら言うと、耳まで真っ赤に顔色を変えたシャロンは、慌てて右肩に手を置き、周りの人々と同じ様な姿勢を取ることに成功する。

「すみませんでした…」

消え入るようにそう話すジャロンは、俯き加減にどう応える。

「シャロンしっかりと顔を上げて。ダンスは視線を合わせる所から始まるんだからさ」
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