風に揺蕩う物語
そして騎士としての性なのか、目を真剣なものにしながらリオナスに視線を送る。

「リオナス殿が相手とは久しぶりに腕が鳴るわい。試合前とはいえ手加減は致しませんぞ。無様な武をさらけ出してはセヴィル将軍との試合前に感覚を鈍らせてしまう」

対するリオナスも目に殺気をチラつかせると、ギルバートと向き合う。

「こちらこそよろしくお願いします。私も最近は宮勤めで感覚が鈍っています。ギルバート殿の覇気で私を鼓舞して致したく申し込んだ所存。私を敵だと思って切って捨てて下さい」

二人は互いに意味深な笑みを見せると、その場を後にしようとする。そんな2人にヒューゴは声をかけた。

「リオナス。久しぶりにお前の剣技を見させてもらう。抜かるなよ」

「承知」

「ギルバート殿…」

「分かっておる。ヒューゴ殿のお心のままに致す」

流石にギルバートは騎士としての年季が違う。ヒューゴの心情などとっくに察していた。リオナスに怪我などさせないと。

「リオナス様。どうかお怪我だけは致しませんようお願いします」

「…安心して見ていろ。私は決して負けん」

振り返らずにシャロンにそう答えて見せたリオナスは、そのままその場を後にした。ギルバートはそんなリオナスの後から付いて行くと、振り返りながらヒューゴとシャロンに手を振ってみせる。

ヒューゴは笑顔を返し、シャロンは深々と頭を下げて2人を見送った。

それからヒューゴとシャロンは形式的な挨拶を交わしながら半刻ほど時間を潰すと、城門前が騒がしくなった。どうやらグレイス共和国の王子様がお見えになったようだ。

ヒューゴやシャロンは、騎士たちが整列して道を作っている後に陣取り、シャロンと一緒に凱旋する様子を視察する事にした。

少しその場に待つと、宮殿の入口付近に白いドレスに着飾ったセレスティアと王族の正装を身につけているヴェルハルトが姿を現した。
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