風に揺蕩う物語
「そうでもないよシャロン。ヒクサク様は物腰の柔らかい御方だよ。僕がセレスティア様の近衛兵をしていた時に良くお話をしたものさ」

隣に居るシャロンの方に視線を向け、ヒューゴは過去の出来事をシャロンに話した。

ヒクサク様は太刀にこだわりがある様で、当時常にセレスティアの傍に居た僕に、太刀の歴史を聞かせて下さったものだ。近くで聞いていたセレスティアは、内心困った表情をしていたのだが、僕は結構楽しんで聞いていた。

というのもセレスティアの趣味に合う話しを何もヒクサク様は知らなかったのだ。

紅茶が好きなセレスティアが紅茶の話をしても、紅茶と珈琲を勘違いしていたり、女性らしい宝石の事を話しても、宝石=石ってな感じの認識しかなく、会話が噛み合わなかったりと大変に困っていらっしゃった。

グレイスランドは鉱石がよく取れる地域なのに、なぜヒクサク様が宝石に疎かったのかは少し疑問を持ったが、ヒクサク様はグレイス共和国の軍部最高司令の立場を持っていらっしゃったので、鉄とかにしか興味を示さなかったのかもしれない。

そこで僕がセレスティアの趣味をある程度熟知していたので、共通の話題が出来る様に2人の会話に参加させて頂いていた。

その話を聞いていたシャロンは、ヒクサクの容姿を見てなぜか納得し、口元に手を当てながら優雅に笑みを漏らす。

「ヒューゴ様は博識ですからね。それはそれはヒクサク様も助かった事でしょう」

「広く浅い知識を持っているだけさ。博識というのは君の事を言うんだよシャロン。僕の場合はつけ焼き刃ってやつさ」

ヒューゴはシャロンと会話をしながら笑っていたが、ふとヴェルハルト達の形式的な会話をしている方に視線を向けた。

するとヴェルハルトの傍らに居たセレスティアと眼があった。

目が合うとセレスティアは僕から視線を外し、目の前のヒクサク様に視線を向け、なにやら言葉をかけている。

僕がこの場に居るかを確認していたのかな。セレスティアが僕を招待してくれた訳だだし、少し気になっていたのかもしれない。

「ヒューゴ様、どうなされたのですか?」

いきなり口を閉ざしたヒューゴを不審に思ったシャロンが声をかけてくる。

「何でもないよ。それはそうと、そろそろ王族の方々の会話が終わりそうだ。宮殿の中に移動するよ」
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