「ワタリガラス」
夕方になりました。
いつもだったらこの時間には少女は帰ってしまう。
きっと、暖かな食卓で美味しいものを食べているんだろう。
そんな空想を巡らせている時に、ふっと、過去の事が思い起こされました。
母親が言っていた事です。
人間を、あまり信用してはいけない、と。自分たちを忌み嫌っているのだから、深入りしてはいけない。と。
そんなことを教えてくれた母親です。
生きていくためには自力で何でもしなければならない。強く生きるとはそういうことだ、と教えてくれた母親。
少女は夕方になっても翼を撫でていましたが、撫で方が過去の母親を思い出させる手つきだったのです。
「そろそろ、夜だね。」
「・・・。」
「夜は何をしているの?」
「何も・・・。」
「ふぅん・・・。」
「あなたは?いつも、何をしている?」
「わたしは・・・。働いてるよ。」
「へぇ・・・。」
「パン屋さんで働いてるの!えらいでしょ。」
「そうね・・・。」
少女は寂しそうな目つきになりました。
聞いてはいけなかったのだろうか、と思ってしまいます。今更の事でしたが、後悔していました。
それにしても、幼い彼女が働いているところなんて言うものは想像できないものでした。
そして、夜になります。
少女はワタリガラスの頭を撫でて、またね、と言いました。
独りに戻ります。
夜は自分を隠してくれるいい時間だったはずなのに。今では少女が少しだけ懐かしくて。
何をする、というわけではありません。無視してしまう事だって多いのに、それなのに少女と会える時間を待ち遠しく思っていたのでした。
矛盾した気持ちがワタリガラスを苦しめます。