Honey Sweet Melody
「どうしてこの前うちに来た時に言わなかったのよ?」
「え?何をですか?」
「先生がここの教師だってこと!おかげで全校生徒の前で恥かいちゃったじゃない!」

 穏やかな態度を崩す気配が一向にない先生に、華音の方はというと少し苛立っていた。

「ああ…そのことですか。すみません。でも…せっかくだから驚かせたくって。」
「はぁ?意味分かんないんですけど?」
「…華音さんならそういうリアクションをしてくれるような気がしてましたから。」
「だーからっ!それが意味分かんないって言ってるでしょ?っていうかなんで名前…。」
「名簿を見ましたからね。僕、一応副担任ですし。」

 案外、計算高いやつなのかもしれないと華音は思い始めている。優しそうな顔をして、実は腹黒いなんてとんだギャップだ。

「あー…もう…大体教師ならあんなボロアパートじゃなくてもっといいとこ住めるでしょ?しかもあたしんちの隣なんて…。」
「教師になったのは今年からですから、給料日まで僕はお金、ほとんどないですよ?教師=金持ちというのはある意味偏見です。それに、お金持ちなのは華音さんの方でしょう?」
「へ?ちょ…ちょっと待って…。もしかして先生、知ってるの?」
「だから、名簿も見たし華音さんのことについて書いてある書類には一通り目を通したって…。」
「だからってフツー覚えないわよそんなこと!」
「…華音さんの名前を一番最初に覚えましたよ?」
「へ?」

 にっこりと微笑んでそんなことを言う先生に、ペースが乱されている自分を知る。自覚すればするほど、焦りが増して、心拍数が上がる。

「引っ越してきた日は隣に生徒がいるなんて驚きましたが…。今ではラッキーだったかなと思います。」
「なっ…何言ってるのよ?」
「…本当のことですよ。これから毎日が、とても楽しくなりそうです。」

 そう言ってまた優しく微笑む目の前の男。この妙に物腰の柔らかい態度と、そしてその眼差しに捉えられて目が離せなくなる。

「もういい。っていうかあたしに恥かかせるようなこと、もうしないでよね。」
「なるべく…気をつけますね。」
「…あたしのこと、おちょくってんの?」
「少しは…はい。」
「あのね…。」
「華音さんが僕の言葉にそんなに反応を返してくれるからですよ。さて、そろそろ戻った方が良いのではないですか?今日はもう終わりですが、帰りのHRがありますから…。」
「あ…そうだった…。じゃあね、先生。もうあたしに変に関わんないでくださーい。」

 華音はその返事を待たずに走った。

「…それは…華音さんの望みでも叶えてあげることは出来ませんね。」

 先生の返事が、華音の背中に返ってきていたのにも関わらず。

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