駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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旅人達の間をお構い無く馬を走らせていた沖田は、見慣れた背中を見つけ綱を引いた。
ヒヒィンッ、と、声を上げゆっくりと止まる。
沖田は 「どうどう…」 と、馬を宥めてから地に足を下ろした。
「沖田君か……」
「山南さん、えらく遠くまで散歩に来たんですねぇ。 私も誘ってほしかったなぁ」
道端の岩に腰を下ろしていた山南の背後に立った沖田は、言葉とは裏腹に腰の刀に手をやり音を鳴らした。
「……逃げないで下さいね」
「…すまないね。 わざわざ迎えにこさせてしまって」
沖田はハッとして、いつも笑顔を絶やさない表情を固く引き吊らせた。
振り返った山南は酷く疲れた顔をしてはいたが、沖田に気を使わせまいと笑顔を見せていた。
それが、必死に我慢していた沖田の感情の蓋を開けてしまう。
「……当たり前ですよ。 あなたは、私の大切な人ですから」
山南は、沖田の引き吊る目元に指を這わせる。
少し伸びた前髪がサラッと揺れた。
「みんな…心配してます。 山南さん…これは散歩でしょ? あなたは散歩が好きだから…ちょっと遠出をしたか…」
「本当にすまなかった」
「ッッ! …謝らないで…下さいよ…」
沖田の背中は小刻みに揺れていた。
それを山南は優しく手で撫でる。
暫く二人はその場を離れなかった。
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