駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
お盆に湯飲みを置き、話を反らしたいのか礼を言う山南に不安を覚えた。
どうして肝心なとこで、目を反らすのか。
どうして、そんな寂しそうな笑顔をするのか。
聞きたいのに、どうしてだろう……聞けなかった。
「山南さん」
「永倉君か」
山南の監視役をかって出たのは永倉だった。
我先にと名乗りを上げたのには考えがあったからで、永倉は矢央の隣に片膝をつくと山南に言う。
「この場は俺が時間を稼ぐ。 だから、山南さんは……」
矢央の手前、はっきりと"脱走しろ"とは言えなかった。
分かってくれ、と、永倉は必死の形相で山南を見つめる。
が、山南は頭を左右に振った。
落胆する永倉を見て、矢央の瞳にも不安の色が広がり今にも泣き出しそうだった。
「いけないですよ? 永倉君、彼女を余計不安にさせてしまっている」
「あっ……くそっ」
「山…南さん?」
頭に乗せられた手は、他の誰よりも細くて白い。
優しくサラッと髪を撫でられ、少しだけホッとした。
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