駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
おっとりとした雰囲気は何処へやら、全身に気迫を纏い一直線に矢央目掛け飛び込んできた。
間一髪で其を避けるが、直ぐさま斜め横へと木刀が振り上げられる。
―――ビュンッ!
「…ッッ…」
早業に遅れた髪が数本切れる。
「手加減…した方がよろしいでしょうか?」
此方を見ることなく屈辱な一言を言われ、負けず嫌いな矢央の心に火がつく。
「いいえ、まったく」
「くすっ。 そうでなくては、面白くないっ!」
後ろに飛び退いた瞬間、また熊木からの攻撃。
一方的な攻めにあいながら、いつか必ず見せるだろう隙を探る。
完璧な人間など、この世には一人としていない。
どんな達人だろうと、必ず隙を見せる時があり、その一瞬を決して見逃すな、と師匠に教わった。
とは言え、この男なかなか隙を見せない。
「おいおい、あいつさっきとはまるで別人じゃねぇか」
「…なんか匂わない」
壁に凭れて高みの見物をする気だった原田は、意外な展開に藤堂の隣に立ち言う。
すると藤堂は、原田の言葉には返事を返さず熊木を睨み据えたまま言った。
「たんまり汗かいたばっかだからな。 しゃーねぇだろ」
「…いや、あんたの体臭のことじゃないから」
荒い息遣いを耳に掠めながら、暫しの沈黙に耐えかねた原田は、咳払いをし藤堂に尋ねる。
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