駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

頬に触れる温もりに手を添えると、僅かに震えていると分かった。

此処に至るまで相当の恐怖と疲労に襲われたのに、それでも藤堂に優しく差し伸べられる小さな手。

この愛しい手を、もう一度取っても良いだろうか。

あんな最低な別れ方で矢央を傷つけ、少しの償いも出来ていない。


この場で武士らしく命を断とうと決めていたのに、心が揺らぐ。




「それは頷けない判断ですよ、藤堂さん」



四人の身体に緊張が走った。

この声は忘れもしない、愛しい女子を傷つけ、こんなにも現場を混乱させた男の声だ。



「熊木っ、貴様っ!」


永倉と原田は、矢央と藤堂を背に庇い刀と槍を構え直す。

藤堂も素早く動き、矢央を熊木から遠ざけた。


暗闇からのらりと身を出して、くすっと笑う熊木は異様な雰囲気で、向き合うつもりでいた矢央も怖じ気づいてしまう。



「間島さん、楽しい余興でしょ? まだまだこれからが面白いのですよ」

「…なにが楽しいんですか? 熊木さんの狙いは私でしょう?だったら…」

「貴女を狙えばいいなんて言わないでください? それでは面白くないんでね」



武器を持った三人の男を前にしても、熊木は武器を持つことなく平然と立っていて、それが逆に永倉達に攻撃する隙をつかせない。


早く屯所に戻らなければと気ばかりが焦る中、熊木は藤堂を指差した。


「藤堂さん、貴方は死ぬ覚悟をしていたはずだ。 ならば武士らしく、潔く死んでくれなきゃ困るんですよ」


目を見開き熊木を見る藤堂は、何故か自分の心が読まれていることに驚く。


「貴方の運命は変わらない」


熊木は喉を鳴らし笑うと、チラッと矢央を見る。


その刹那ーーーーー







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