駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
それからは出店を覗いたり、甘味処で休んだり川沿いで肩を寄せ合って座り楽しい時間を過ごした二人。
二人の想いが通じ合って、初めて恋仲らしい穏やかで楽しい時間だ。
これがデートっていうやつかもと嬉しくて知らず知らずニヤけてしまう。
「でえと?」
「はい。未来で恋人達が一緒に出掛けることをデートって言って、まさか新八さんとデートできるなんて思ってなかった」
「でえと、か。他に、矢央の時代とこの時代で言葉が違うもんってあんのか?」
「いっぱいありますよ」
外来語はこれから沢山入ってくる。
外国人も敵だと思っていながら、永倉の表情はまだ見る未来を想像して輝いていた。
「例えば?」
「んー、あっ!私が最初本当に分からなくて困ったのがあるんですよ!それが厠なんです」
「厠?厠は厠だろ?」
いや、そうなんだけど。
「未来ではトイレって言います。厠なんて知らなかったくらいなんで、土方さんにトイレどこって聞いて、なかなか分かってもらえなくて、もう少しで漏らすとこでしたよ」
あれは本当に困った出来事だった。
その他に、この時代に昼食が当たり前にないことも少し驚いたり、火の起こし方とな井戸だって初めて見て驚くことばかりだったと話す。
「そうなると、お前意外と苦労したよな。同じ日の本でも未来では通じなくなる言葉や、生活道具ってのがあるんだな」
「そうですよー。なのに皆けっこう馬鹿にしてたでしょう?馬鹿なんじゃなくて、元々言葉の意味や物の使い方事態分からないんだから、馬鹿はないですよ」
今でこそそれなりに暮らせているし、これからは矢央が生きた時代に近付いていくのだから、これから驚くのはどちらかと言えば永倉達だろう。
「悪かったって。そうなると…おい、こっち向け」
「はい…なんです…っ!!」
永倉に顔を向けると、目の前に永倉の顔と唇には柔らかい感触。
離れた永倉は意地悪な笑みを浮かべ惚けている矢央の頬を撫でた。