駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
お茶を渡すついでに、夜の献立は何が良いかと話題を振ってみよう。
好きなおかずなら、多少は箸を向けてくれるかもしれない。
「山南さーん、お茶いかがですかー?」
先程まで矢央もいた場所から、山南に呼び掛ける矢央の背中を見つめる男達は、コソコソと話しだす。
「ああやってみてると、小姓の役目十分にできるようになったよな」
「クックッ! 昔は、運ぶどころか茶のいれかたすら知らねぇときた」
「料理も上手くなってるし」
「作れるものは少ないがな」
短い時間で、矢央は随分と成長した。
今回のように仲間内で問題があると、以前の矢央なら訳も聞かず土方にくってかかっていただろう。
しかし今回は見守ることに決めているのか、影で山南を支えようと頑張る彼女を見ていると、此方も頑張ろうと思える。
「山南さーん? 寝てるのかな?」
返事がなく障子を開ける矢央は、部屋の中を見て唖然とした。
ガシャンッと、手からお盆が落ちると同時だった。 沖田が足袋のまま庭を駆け抜けたのは。
暗い部屋に風が入り込み、ヒュウヒュウと暴れる風が文机の上にあった手紙を舞い上がらせた。
外からの明かりに照らされ、数人の影が畳に黒く浮かび、中でも一番小さな影の上にヒラリと手紙が落ちる。
それを沖田が握り締め、静かに部屋を後にしたのだった―――
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