黒と白
机の上に置いてあった音楽プレイヤーを取って、イヤフオンをつけて、最大音量にする。
ふーっと煙を吐き出す。この瞬間だけ、呼吸が出来るようになる気がする。
外はまだ8時だと言うのに静まり反っている。

少しだけ外へ出ようかな。
珍しくそう思った私は、上着を這おって部屋を出る。
階段を降りると、母が何か言っていた気がするけれど、音量を下げるのがめんどくさくて、そのまま家を出た。

今日は傘を差さずに歩く。九月の雨は少し冷たかった。
近くの神社は小さめだけれど、立派な松の木が生えている。
松の木は雨に揺らされてキラキラしていた。

いつからこうなったんだろう。
昔は私もきっとこんな風にキラキラしていた気がする。
一歩踏み出せば、もう一度あの世界へ行けるのだろうか?
風景画の中へ。マネキンのいない世界へ。
でも、そんな勇気も無くて、結局私はここにいる。
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