黒と白
あの子は自分を松の木だと言った。私はそれを信じた。何故か解らないけれど、それが本当なら嬉しいと思った。
だから、名前も年も聞かなかった。
「お姉さんはどうしてここに来るの?」
松の木が綺麗だからと私が答えるとあの子は笑った。
「それだけで毎日ここへ来るなんて物好きね」
そうかもしれない。でも、私が私だと思えるのはここだけなんだ。
「怖くなってしまっているだけよ。」
私の考えが解っているようにあの子は言葉を続ける。
「少しだけ歩いてみて。私は此所から動けないけれど…」
そう言って、また悲しそうな顔をした後に、だからこそ、いつでも此処にいるわと声を強くした。

それからまた暫く話した後、朝日が昇ってきたので、私は帰ることにした。
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