チューリップ
王子様についた嘘

「沙耶は将来の夢、決まってんの?」

いつになく真剣な表情を見せる優斗に、沙耶は違和感さえ覚える。

「夢」と聞いてほんの一瞬戸惑った。

「園芸。チューリップ」

沙耶はほとんど無意識に、そう答えた。

「チューリップ? ……なんで?」

きょとんとした表情をして、沙耶を見つめる。

「めずらしい種類のを、栽培するの。それで、きれいに咲いたら、みんなに売ってあげるの。そういうお仕事ー」

優斗のベッドでまるくなっていた身体をのばし、両腕をぐっと布団の上に出して、天井を見ながら沙耶は言った。

優斗はふっと笑みを浮かべた。
「さすがだな。花はいいよなぁ、明るくなるし」

そう話しながら、沙耶の髪を、ゆっくりゆっくり、撫でる。

「じゃあ、何の花が好きなの?」

「ん~、お花はなんでも好きだよ。ガーベラも、ラナンキュラスも、ユリもダリアも」

「なんて!? 呪文みたいだなぁ、ユリしか分かんないって」

「バカ」





そんなことをぽつぽつ話しながら、からかうように今度は沙耶が優斗の髪を撫で始めた。


「これが園芸家が花を愛でる時の手つきか。」

優斗はにっこり笑った。




きっと、チューリップくらいでなければ、花に興味のない男の人にはその姿を一瞬でイメージすることができないかもしれない。

あとは、ヒマワリとか、バラとかなら、大丈夫だろうか。

だけど沙耶はとっさにチューリップを選んだ。

彼にどこか、子どもっぽさにも似たおおらかな優しさを、沙耶は感じていた。

初めてクレヨンを持たされた子どもが描くチューリップみたいに、堂々とした明るさ。

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