不器用な僕たち
その向こうで、雅人はお母さん以上に泣いていたくせに、私と目が合うと大慌てで涙を拭い、何事もなかったかのような表情に切り替えた。
真っ赤になった、泣き腫らした目。
慌てて涙を拭ってもバレているよ。
遠い意識の中で、涼ちゃんの声を聞いたような気がしたけれど、目が覚めた時そこには涼ちゃんの姿はなかった。
自分が生還したことが嬉しかったけれど、涼ちゃんがそばにいなかったことが少し寂しかった。
ツアー中で、ここに来ることなんて無理だって分かっていたけど……。
「じゃ、俺そろそろ帰るから」
「えっ?もう?」
入院準備で先に帰ったお母さんに続いて、雅人も帰ってしまう。
一人ぼっちなんて寂しすぎる。
「邪魔者は退散しねぇとな」
病室を出る間際、雅人はニヤリと笑う。