執事と共に聖夜を。
「……私が倒れたってこと、誰にも言わないでね」


初めて、恵理夜が心細そうな声をあげた。


「今朝も、朝練、ですか?」

「そう」

「護身の為に武術をたしなむのは構いませんが、ほどほどになさってください」


そう言って、恵理夜の体を抱えあげた。


「そうは言っても、この間も助けられちゃったし」

「執事として当然のことをしたまでです」

「でも、お荷物なんて嫌だもの」

「では、せめて私を呼んでください」

「私の朝練のために、あなたの貴重な睡眠時間を削るなんて」

「おや、私はそんなに頼りないですか」

「違うわよ。強すぎて相手にならないじゃない」


春樹は、恵理夜の体をそっとベッドの上に降ろし、呟いた。


「……弱すぎるのでは?」

「……私がって言いたいの…っう」


と言った瞬間、鼻血の勢いが増した。

春樹はその鼻血をそっと拭った。


「……綺麗な顔が台無しですね」

「箔が付いた、って言ってよ」


春樹は呆れたが、確かに鼻血を流しながら微笑むその顔にはある種の凄みがあった。


「学校は、休まれますか」

「行くわ。ただ、もう少し休んでからにする」

「では、車を用意しておきます」

「お願い」


春樹は、もう一度丁寧にその顔を拭い、一礼して部屋を出た。
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