新パラレルワールド参加作品=The shadows=天才浅海ユウと凡才月星大豆の奇跡的コラボ[企画]
「その夜、夫が寝てから、マンションを抜け出しました……。お金を持たせて貰ってなかったから……歩いて……とにかく夫から少しでも離れたくて……」
続けて話す彼女の呼吸が、少しずつ乱れ始める。
「でも、雨が降り始めて……寒くてたまらなくて……公園の遊具の下で雨宿りしてるとこを……夫に見つかって……」
彼女の呼吸は浅く、小刻みに繰り返すその間隔が、どんどん短くなってきた。
「ちょっとフウカさん、続きは落ち着いてから……」
「大丈夫……。大丈夫だから……。聞いてください」
彼女は必死で訴える。
「夫に連れ戻されて……ハッ、ハッ……ハッ……」
胸の辺りを抑えて、苦しそうな息をしながらも話を続けた。
「ハッ、ハッ、動物……病院の……ハッ、ハッ、……手術台で……ハッ……麻酔もしないで……ハッ、ハッ、ヒクッ、ヒクッ!」
───まずい、過呼吸だ───
彼女の手足が痙攣し始めるのを見て、俺は側に有ったビニール袋を掴んだ。
床に崩れた彼女の体を起こして支えながら、すっかり変色してしまった唇を覆うように袋を当てた。
「ほら大きく膨らませて、大丈夫だ、ほら空気を吸って……ほらゆっくり……そうだ。心配ない」
呼吸を落ち着けるように諭した。
「ハァ……ハァ……。この発信器は……『シルシ』なんです……。ハァ……夫の所有物としての印……ハァ……だから、一刻も早く……取り去りたい……ハッ、ハッ、ハッ……」
正常な呼吸を取り戻しかけると、すぐにまた話の続きをしようとする。
そしてまた過呼吸に陥ってしまう、といった悪循環だった。