わがまま娘の葛藤。


外部入学のあたしとは違って、礼の高校はほぼエスカレーターで大学へと進む。
だから、蘭さんが同じ大学だということは知っていたが、学部も違うし、本当に久しぶりの再会だったらしい。


ため息をつくあたしを、心配そうに大地くんが覗き込む。
あたしが無理を言ったのに、心配までさせてしまって申し訳ない。

こんなことを聞いてしまって、あたしはどうしたらいいんだろう。
自分で知りたいと言ったことなのに、もう聞かなきゃよかったと思う自分がいる。


「でも、今はちーちゃんのことだけ見てると思うよ。気にするなって言ったのは、そういうこと」

大地くんは、そう言ってくれたけど。
過去のことなんて、気にしてもしょうがないって思うけど。
1度胸に広がった黒い影が引くことはなかった。




その後、バイトがあるという大地くんと別れて、当てもなく一人街をぶらつく。

まだ夕方になったばかりだというのにすでに空は紅く染まりかけていた。

そのせいか、夕日に反射して、初めは顔が認識できなかった。


「――…ちーさん?」

名前を呼ばれ、振り向く。
あたしを"ちーさん"と呼ぶ人は一人しかいない。


「こんなとこで奇遇だね!ね、よかったらお茶でもしない?」

綺麗な見た目とは裏腹に、可愛らしい子供のような笑顔を浮かべる。
そのまま一緒に、本日二度目のスタバへ入った。



「よかったぁ。ちゃんとね、ちーさんに謝りたいなって思ってたの」

謝る?なにを?
言わなくても分かったのか、ふふっと笑う。

「私まで旅行行くことになっちゃってちーさん、嫌じゃないかなって本当は気になってたの」

そう言って、あたしの分までカップミルクと砂糖を渡す。
さりげなく気が利く。
自然すぎて、不快感すら抱かない。


蘭さんと普通に出会っていたら。
先輩・後輩として出会っていたら。
多分、あたしはこの人に憧れて、ものすごく慕っていたと思う。

美人で気さくで、気が利いて。
相手の望むことを、自然にする。
あたしにないものを全て持ってる。

まるで、礼みたい。

この人が、羨ましくって仕方ない。



< 23 / 60 >

この作品をシェア

pagetop