花嫁と咎人

「お前ごときが…図々しい口を叩くな…!」


そして襟を掴まれたまま、ラザレスによって部屋から追い出され、今に至るのだが。

もう何をされても表情は変わらなくなっていた。
昔からこんな事は当たり前だったから。

父には絶対服従。
言われた事をこなせなければ、何故か親しい友人が次々に殺されていく日々。

その時からきっと自分の心は壊れてしまって、感情など無意味に等しく、気がついた時にはもう僕は一人。

考えれば当たり前の事だ。

離れなければ、次に殺されるのは自分かも知れない。

死にたくない。

まだ、死にたくない。

誰もが自分に畏怖の視線を向ける中、ただひとりだけ…そう、ただひとりだけ。

僕を救ったやつがいた。


オーウェンは服の汚れを落としながら、黙々と足を進めた。

すれ違う者、皆…自分を見るなり端によって頭を下げる。


歯車が狂い始めている今。

自分の心の中に、まだ人間としての善がある内に。

嗚呼、この腐った傀儡子王国を、壊してくれ。


「さあ、今度はお前の番だ。」


向かうは中央都市“アリエスタ”


僕が狂うだけの道具ならば、お前はそれを壊す正義だ。

旧友よ、死は…そんなに甘い物じゃない。



「どちらが勝つか、勝負しよう。」


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