花嫁と咎人
「…追われてるなんて…嘘みたいに平和だな。」
優しい目をして、そう彼は微笑んだ。
そんなハイネを見て…わたしもそうねと微笑む。
…刹那、きゅっと握られる手。
抱き寄せられる肩。
「このまま時が止まればいい。」
消えるように小さな声でハイネは言った。
…出来るならば、時よ止まって。
私もハイネと同じ思い。
けれど、時は無常にも秒針を刻んでゆく。
時間は、時代はとどまることを知らない。
「でも、止まってしまったら…何も変わらないわ。」
そう、この運命も。
この状況も…。
嫌でもこの時を動かさなければならない苦痛。
「………。」
青い目が…私を見つめた。
「なら…今だけ。」
そういってハイネは近くにあった紫色の花を摘み取り、私の髪に。
「今だけなら、時間を止めてもいいだろ。」
ふわりと風が頬を撫でる。
優しい香り。
美しい色。
「そうね…今だけなら…きっと女神様も許して下さるわ。」
一瞬の幸福、愛する人の側にいること。
しかしそれさえ…
私達にとっては命がけの行為でしか無かった。